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 2013年4月 〜 2015年4月     Vol.5

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かじるのは「仕事」だから  2014.3.8


 
犬は人間のようにテレビを見たり、本や新聞を読んだりすることはない。子犬が静かにしているのは眠っている時か、何かをかんでいるときかのどちらかだ。特に日中、子犬が一匹で留守番するような日はいたずら対策が必要だ。まずは外出前に散歩やボール遊びなどでしっかり運動させ、疲れさせておく必要がある。さらに留守番中にすることを与える。子犬にとって噛むことはごく自然な行動で、「かむのが仕事」と言っても過言ではない。やめさせるためにはまず本能のはけ口が必要だ。例えば転がすと入れてある餌が少しずつ出てくるおもちゃや犬用のガムなど暇つぶしになるものを置いて出かけるようにする。かまれて困るものや危険なものは届かないところに移動する。家具など移動できないものには、リンゴの皮から抽出した苦み成分からできた液体のしつけ製品などを吹き掛けておくと良い。部屋から出ていく前に、一度座って子犬の目線になり、部屋中を見渡してみよう。かじったら危険なものが犬に届きそうな場所にないかを確認する。コード類も抜いて届かない場所に置くか、家具などで隠しおく。帰ってきた時に何かいたずらをしてるのを発見したとしても、その時点で叱っても子犬には理解できない。留守番の時間が長すぎたこと、自分の環境整備が甘かったことを反省して子犬には何も言わずに片づけてほしい。そして片づける前に写真を撮っておくと良い。写真を撮っておけば後で笑い話の種にできるからだ。
 

遊びの中にしつけを  2014.2.22


 
犬は遊びが大好きな動物だが、犬同士の遊びの目的のひとつは同種動物とのコミュニケーション技術の習得だ。例えば仲間を強く咬んではいけないことや犬特有のボディランゲージや社会的なルールを学ぶ。複雑な運動パターンを学習し、身体的な能力を磨くことで狩の練習にもなる。ペットの犬に狩りは必要ないが、その本能は強く残っており、適切な方法で発散させてやらなければ、問題行動(破壊活動や無駄吠え、攻撃行動など)を起こしやすくなる。野生動物は起きている時間の大半を食べることに費やしていると言われているが、ペットの犬は、食器のフードを数分で食べ、一日の大半を退屈して過ごすことになる。飼い主はできるだけ遊ぶ時間を作り、エネルギーの発散をさせてやるべきだ。その際ただ遊ぶのでなく、教育を意識してほしい。特に子犬期は人間社会のルールを教えるのに重要な時期であ、遊びは有効な教育ツールなのでルールを決めて行おう。例えばひっぱりっこをする前には「お座り」や「伏せ」などの合図を出し、犬が従ったら一緒に遊ぶ。犬は飼い主の合図に従うことは良いことだと学習する。遊びの中で興奮状態になるため、落ち着くことも同時に教える必要がある。ひっぱりっこを中断し、落ち着いて飼い主の合図に従ったら遊びを再開する。ほえたり、飛びついたりしたような時には再開しない。子犬は遊びが大好きなので、遊んでくれる飼い主のことを大好きになり、犬と良い関係が築くためにも有効だ。
 

 
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不幸な猫 減らすために  2014.2.8


 
四季がある温帯に住む野生動物の多くは繁殖活動を1年の特定の時期に行う。出産と子育てを気候が温暖で食べ物が豊富な春に行い、母子の生存率を高めるためだ。たとえば妊娠期間が約半年のニホンザルの交尾期は秋だし、妊娠期間が11か月の馬は春が交尾期というように、出産と子育てが春になるように交尾期が設定されている。犬や猫などのペットを含め、家畜化された動物は食べ物は人から与えられるし、子育てにも人の援助があるため、この季節繁殖性は野生動物ほどはっきりしていない。しかし屋外で暮らす猫は春が出産のピークとなる。猫の妊娠期間は約2か月なので、今がまさに交尾期だ。猫は交尾刺激によって排卵するという特徴を持ち、交尾をすると高い確率で妊娠し、出産する子猫の数も多い。飼い猫がたった一日家出をしただけで妊娠して帰って来たという例も珍しくない。厳しい生活をしている野良猫でも、餌が豊富にあれば次々と繁殖活動を行う。屋外には交通事故、猫同士の闘争、猫特有の伝染病など多くの危険があり、外で暮らす猫の寿命は非常に短く、3年から5年とも言われる。また毎年春には多くの生後間もない子猫が行政施設に持ち込まれ、短い生涯を終える。2012年度の猫の殺処分数は12万3445匹、そのうち7万5084匹が子猫だ。これを少しでも減らすには今の季節が大切だ。飼い猫を外出させることや、野良猫を不憫に思い餌を与える優しい行為も実は不幸な猫を増やす原因になっていることを知ってほしい。不妊去勢手術をしていない猫にはぜひ春までに手術を受けさせてほしい。
 

渇きに鈍感な猫      2014.1.25


 
猫の祖先は中東のリビアヤマネコで、古代エジプトで飼われ始めた。もともとさばく出身である猫は、体内の水分を極力減らさないようにするため濃縮した尿をする。また喉の渇きに鈍感で水を飲まなくても平気な傾向がある。そのため泌尿器の病気のリスクが高く、膀胱炎や尿石症、腎不全などの病気が多い。特に冬場は水を飲む量が減るため、できるだけ飲水量を増やすようこころがけてほしい。まずは水の与え方を工夫してみよう。たとえば容器は猫が最も好むと言われているのが陶器だ。その次がガラス、プラスチック、ステンレスの順だという。そして長時間置いてある水よりも新鮮なもの、流れている水を好む。また小さな器よりも大きな器にたっぷり入っている方が好む場合が多い。ただし猫によって好みが違うので、さまざまな器を置いてみて猫の好みを見つけてほしい。また設置場所に関してはいつでも気が向けば水を飲めるように、猫が普段長時間過ごす場所を含め、猫の行動範囲のさまざまな場所に置くと良い。ちなみに我が家では大きめの陶器や磁器を猫の水入れとして使っている。洗面台の付近に1つ置き、自分が手を洗う際に水を入れ替え、いつでも新鮮な水が飲めるようにしている。また猫が長時間過ごす寝室にも置いてある。また日当たりの良い出
窓にも置き、暖かい場所で水を飲めるようにもしている。さらにキッチンとリビングにも犬用の大きな水入れがあり、これを利用していることもある。また猫が排泄を我慢することがないように、トイレはこまめにきれいにすることやトイレの設置場所も注意が必要で、猫がアクセスしやすく特に冬場は寒くない場所にもトイレを設置してほしい。
 

 

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「経験から学習」を活用  2014.1.14


 
新しい年の幕が開けた。今年も獣医師として、一人でも多くの人と動物がより良い関係を築き、幸せに暮らすためのお手伝いをしたいと考えている。ペットとの暮らしをより楽しくするために動物行動学を勉強することはとても役立つ。少し専門的になるが、「古典的条件づけ」はペットの行動を理解するのにとても大切な学習理論のひとつだ。動物が生まれつき持っている反応を引き起こす刺激(無条件刺激)を本来はその反応を引き起こさない刺激(中立刺激)と一緒に与えることでやがて中立刺激だけで反応が起こるようになる。ロシアの生理学者パブロフが犬にベルの音(中立刺激)を聞かせてから食事(無条件刺激)を与えることを繰り返すことで、犬はやがてベルの音を聞いただけでよだれを流すようになるという研究は有名だ。飼い主がリードを持てば散歩を予測して犬が尻尾を振ったり、缶詰を開ける音を聞くと猫缶を想像して猫が走ってきたりするのも同じだ。このように犬や猫は自分の経験を通じて様々なことを学習しているのだから、飼い主はこれをうまく活用すべきだ。たとえば猫を動物病院に連れて行くのにキャリーケースを見せただけで逃げてしまうという飼い主さんは多い。これはキャリーケースと動物病院での嫌な体験をセットで学習してしまった
からだ。これを改善するためにはキャリーケースをリビングなどに出し、ドアを開けて中に猫の食べ物を毎日「お供え」しておくだけで良い。しばらくキャリーケース以外の場所で食事を与えないようにすれば、最初は警戒していてもやがてキャリーケースの中の食事を食べるようになる。これを続けるとキャリーケースはやがて猫にとって安全で楽しい場所に変わるのだ。

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